『歌うクジラ』村上龍
オススメの本『歌うクジラ』村上龍
近未来を描いたサイエンスフィクション。
効率と快適さを求めた結果、完全なる管理体制下で行われる「棲み分け」で生まれた階層社会。
重要な情報を手にした最下層の少年が、その情報を届けるために最上層へ向かう物語。
読み終わって最初の感想は「ずいぶん遠回りしたね」である。
彼の道程が遠回りなわけではなくて、著者のメッセージが。
正直、読み易いとは言い難い作品。
でもあらすじだけ知ればそれでいいという作品を書く作家ではない。
村上龍さん特有の表現は健在です。
気持ち悪いと思えばやめればいい。不快だと思うのなら読み進めなければいい。
読者は自由なのである。
しかし、彼の作品には読者の想像力を試す「しかけ」がある。
それについてゆけば、必ずどこかで力強い美しさを持つ言葉に出会う瞬間がある。
わたしは若干Mっ気があるので、そういうのが快感です。(←そんな情報いらん)
そして何かに気づく。もしくは思い出して再確認する。
これが大切。
“誰も他人の想像を支配できない。想像は支配の道具ではなく、想像する主体を導く。想像する力がお前を導く。想像せよ、お前は導かれる。”
“取り戻せない時間と、永遠には共存し合えない他者という、支配も制御もできないものがこの世に少なくとも二つあることを、長い長い人生で繰り返し確認しているだけなのだって、わたしは気づいたの。”
永遠なんか誰も求めてないということ。快楽だけを求めるべきではないということ。
少年はどうしてこんなスピードで移動しつづけるのだろう。
でも彼は決して間違ってなかったはず。
Writer.
この記事を書いた人
大西 友紀子